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高松地裁・高裁=2024年7月8日午前11時17分、高松市丸の内、土居恭子撮影
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 出産した赤ちゃん3人の遺体を自宅に遺棄し、うち1人を殺害したとして、死体遺棄と殺人の罪に問われた母親で元風俗店従業員、山下あゆみ被告(36)の裁判員裁判の判決が21日、高松地裁であった。深野英一裁判長は「生命の尊厳を軽んじる犯行であり、厳しく非難されるべきだ」とし、懲役6年(求刑懲役7年)を言い渡した。

 判決などによると、山下被告は2018年12月上旬と20年4月11日に自宅で、23年6月28日には勤務先の店で、いずれも男児をひとりで出産。それぞれの遺体をポリ袋に入れて高松市の自宅アパートのクローゼットに遺棄したうえ、20年に生まれた男児の鼻と口を母乳でぬれたタオルで覆って窒息させ、殺害した。18年の男児は死産で、23年の男児は被告が出産後に意識を失っている間に何らかの原因で死亡した。

 公判では、弁護側は起訴内容をすべて認め、量刑が争われた。逮捕後に診断された山下被告の注意欠如・多動症(ADHD)が犯行にどの程度影響したかや、ホストからの暴力被害や色恋営業による経済的困窮、孤立出産といった背景事情をどう判断するかが争点だった。

 検察側は、山下被告が20年に出産した男児を熊本県にある匿名で子どもを預かる「赤ちゃんポスト」に連れて行こうとしていたが、電気代の支払いで旅費が足らなくなり殺害した経緯に注目。周到ではないが計画的に行動できており、ADHDの特性とされる衝動性はみられないとして「量刑において特に考慮すべき事情ではない」と主張。ホストらとの関係については「(風俗店での勤務を)強制されていた様子はなく、支配や隷属関係とは言えない」などと主張していた。

 弁護側からは、被告をADHDと診断した精神科医の興野康也医師が証人として出廷し、障害特性について「困っても援助を求めるのが苦手で、短絡的な思考に陥りやすい」として考慮を求めた。

 赤ちゃんポストを運営する慈恵病院の蓮田健院長も弁護側証人として立ち、障害の影響もあって家族との関係が断たれていた被告と、家族を頼れない人が多い赤ちゃんポスト利用者との共通性を指摘。「(赤ちゃんポストへの旅費がなくなり)八方ふさがりだったのだろう」と述べていた。

 判決は障害の影響について「生活の困窮に至った点や、他に救済を求める手段を検討しなかった点にADHDの影響があった可能性は否定できないが、(2人目を)10日前後養育した後に殺害を決意しており、衝動性はうかがわれない。与えた影響は大きいとはいえない」と判断した。一方、今後は社会福祉士らの支援を受けることや子どもらを弔い続けることを誓ったとして懲役6年が相当とした。

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